本研究は、雇用保険制度や生活保護制度において、失業者の就労を促進することの法的意義について検討することを目的とする。今年度は、特にドイツの求職者基礎保障給付に着目した。求職者基礎保障給付は、「支援と要請」を基本原理とし、受給者の自己責任の強化と基礎保障給付に依存しない生計の維持を目的とする。その手段としては、実施主体との「統合契約」の締結がある。受給者は、この統合契約に基づいて職業訓練等に従事する義務を負い、統合契約に従わない、あるいは締結を拒否する場合は、30%から最大60%まで給付が削減されるという制裁が用意される。25歳未満の受給者に対しては、100%の給付制限も可能となった。このように制裁が強化される一方で、受給者はアルコール・薬物依存、金銭問題、語学力不足等の就労以前の問題を抱えていることが明らかとなった。そこでドイツでは、こうした問題を解決しつつ就労を支援する組織として、自治体とジョブセンターからなる協同組織を設立し、これを通じた支援が実施された。しかし、この協同組織に対しては、自治体の事務遂行権の侵害であるとして連邦憲法裁判所による違憲判決が出された。日本でも、生活保護受給者に対する自立支援プログラムが実施されているところであり、保護の実施主体のあり方を検討するに際して、ドイツの動向は示唆的である。 また、近年、ワーク・ライフ・バランスの実現が重要な政策課題とされるが、働きやすく魅力ある職場の提供は、失業者を就労の場へと統合するためにも必要である。そのため、ドイツでは最低賃金法の制定が目指されているし、日本でも最低賃金法改正の際には、生活保護施策との整合性への配慮が、労働契約法制定時には仕事と生活の調和との文言が挿入された。今後は、最低生活保障のあり方について、労働法の観点からも検討を加えたい。
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