本研究は、雇用保険制度や生活保護制度において、失業者の就労を促進することの法的意義について検討することを目的とする。今年度は、ドイツの失業手当制度が失業者の就労インセンティブとなり得たかを検討した。その結果、失業手当受給者に対しては、労働市場への復帰をできるだけ早期に果たすことが優先されるため、職業能力の高い者や失業期間の短い者から優先的に職業紹介や職業訓練紹介の対象とされる傾向にあること、前職との継続性やその後の職業的発展性などはあまり考慮されることなく職業紹介がなされていること、そのため、再び失業するリスクも高いことなどがわかった。失業手当の受給権を持たない者は、求職者基礎保障給付の対象となるが、失業手当制度で効率性が優先される結果、より再就職困難な者が求職者基礎保障給付の受給者となっている可能性が高い。 失業手当制度はもとより、求職者基礎保障給付の受給にも就労や職業訓練等の受け入れが義務とされるドイツの生活保障制度は、近年ヨーロッパ諸国を中心に広がるワークフェア的な政策の一つと位置付け照れる。ワークフェアとは、就労することを軸に経済・社会・文化的生活への参加を促す「社会的包摂」のための政策を意味する。就労には、収入による生活費の確保のみならず、就労を通じた人間関係の形成や自立心の向上といった価値も見出せるため、ワークフェア策は肯定的に評価されよう。しかしなが照、ドイツでは、就労インセンティブ策として求職者基礎保障給付についても給付削減も用意しているため、最低生活保障が実現されない可能性も指摘できる。 今後は、求職者基礎保障給付の給付削減の状況を精査し、受給権者の最低生活保障が図照れているかを検討することとしたい。
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