本年度は、被疑者弁護のあり方に関する検討の出発点において、本研究の見通しを得るため、まず、弁護人の役割・機能に関する基礎理論的研究に関する論考に検討を加えることを通じて、わが国の議論の展開を跡づけるとともに、関連する裁判例の収集・分析を行った(具体的には、弁護人の役割・機能をめぐっては、被疑者・被告人の「正当な利益」の保護者とする理解は存在するものの、いかなる利益をもって正当なものとするかについては、従来、公的利益への配慮を強調する立場から、真実義務を否定して誠実義務が弁護人の中心にあるとした上で被疑者・被告人の判断を尊重すべきことを説く立場まで、その理解は様々であることから、その相違がいかなる考慮に由来するかに着目して、検討を行った)。 これと並行して、実務家に対する聞き取り調査を実施して、被疑者弁護の水準及び適正に関わる問題、特に、不熱心弁護ないし不十分弁護に関する状況の把握に努めるとともに、弁護士の懲戒事例の収集・分析を行い、また、諸外国における議論を踏まえつつ、被疑者に保障されるべき「弁護人の援助を受ける権利」の内容ないし水準に関する予備的な検討を行った。 さらに、被疑者国選弁護制度の対象とはされていないが、在宅被疑者の弁護もまた、被疑者段階において、弁護人が重要な役割を果たし得る分野であることを、「在宅被疑者の取調べとその限界」(「法學」誌に連載)において指摘した。
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