研究概要 |
平成19年度において取り組んだ課題は大きく2つある。第1に,我が国の伝聞法則の解釈運用の到達点とその問題点を明らかにすることである。現行刑訴法制定以来の我が国における伝聞法則をめぐる議論を整理するとともに,裁判員法の施行を目前に控えて法曹三者の進める準備作業に特に注意を払い,本研究において応答すべき問題を把握することに努めた。なお,当年度内に公表することのできた論稿2編(3件)は,いずれも,研究開始時の問題意識を,海外への裁判員制度の紹介,および,事故調査報告書の証拠能力に関する検討という形で,再確認しようとしたものである。 第2に,母法アメリカ法を対象とする比較検討を行う前提として,アメリカ刑事訴訟法及び証拠法の全体像を正確に把握することに努めた。伝聞証拠も証拠の一種である以上,訴訟の基本的な構造,法廷における立証,弁論の技術,他の証拠の扱いとの相関関係において,伝聞法則の意義や具体的内容を捉えることが不可欠だと考えたためである。この点に関連して,アメリカにおける法廷実務,および,アメリカの法科大学院における法廷弁論教育を実地で観察する機会を得たことは,アメリカの検察官,弁護士の法廷弁論や立証活動における基本的思考や問題意識を知る上で有益であった。一方,当年度に予定していた作業のうち大陸法の直接主義との比較に関わる部分については,伝聞法則を含むアメリカ証拠法の体系を俯瞰する作業に時間を要したこともあり,本格的な検討を行うことができなかった。これについては,アメリカ法からの示唆の抽出と併せて,平成20年度の課題としたい。
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