研究概要 |
我が国の刑訴法が戦後アメリカ法から導入した伝聞法則の具体的な規制内容や運用の在り方には母法との間に相当の懸隔がある。それが何に起因するものであり, 裁判員裁判の実施に伴ってどのような変革がもたらされるのか(あるいは, 変化させるべきなのか)を探求することがこの研究の目的である。平成20年度においては, 前年度の研究の成果を踏まえ, 母法アメリカ法における伝聞法則をめぐる議論と運用の実際について分析, 検討することに集中的に取り組んだ。とりわけ, 前年度と同様に, アメリカにおける法廷実務を実地で観察する機会を得たことは, 比較研究を行う上で極めて有益であった。2年間の研究を通して, アメリカの伝聞法則は陪審制のみならず, 法廷における主張立証の作法や, 心証形成のあり方等との相関において理解されるべきであること, したがって, 裁判員裁判の導入によって単純に母法回帰が要請されるわけではないことを強く認識するに至った。そのような見地から, アメリカ法からの継受後半世紀余りの間に日本化した伝聞法則のうち, 母法に回帰すべき部分, 母法回帰以外の変化が必要な部分, そうでない部分の仕分けの作業を行い, 相当程度の見通しを得た。平成20年度中に研究成果を公にするには至らなかったが, 今後補充的な研究を行った上で, 平成21年度中に論文として公表する予定である。
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