犯罪関与行為の可罰・不可罰性について検討する際には、犯罪関与理論(共犯理論)それ自体のみならず、刑法の基本原理・一般理論(たとえば刑罰の本質論・共犯の処罰根拠論等)にもさかのぼって深く検討することが不可欠であるとの認識にもとづき、諸外国(特に米国・ドイツ)および我が国における先行研究を比較対照し考察した。今後、より深い検討を継続していくことが必要であるが、基本原理・一般理論と整合する犯罪関与行為処罰論を展開するために極めて有用な資料を手にしつつあると考えている。 従犯の主観的成立要件の実体をめぐる考察に進めたが、その際、基本原理・一般理論のあるべき姿を常に念頭に置いた。特に、他者の犯罪の手助けとなるもののそれ自体としては犯罪性が明確でない「価値中立的行為」・「日常的行為」等と呼ばれる犯罪幇助行為一般について、行為者の主観面の実体を解明することで、その可罰・不可罰性の分水嶺を検討した。その成果の一つとして、論文「従犯の主観的要件の実体」を纏めた(掲載決定済。現在最終のとりまとめ中である)。この論文においては、他人による著作権法違反行為のために有用となるコンピューターソフトをネット上に公開し導入可能状態にする行為を可罰的とするか否かの問題(高裁で無罪判決が出ている)についても言及しており、現代的課題にも対応する内容となっている。
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