本年度当初の研究計画に則し、犯罪関与理論(共犯理論)研究の土台とすべく、刑法の基本原理、一般理論、法文化等を主たる検討対象とし、考察を進めた。我が国の文化と刑法(刑法理論・刑法学)との関係性、刑罰の正当性、さらには死刑制度の本質と同制度の今後のあり方についてまで検討範囲を広げた。このような基礎的研究を経た(今後も続けていくつもりであるが)ことにより、刑法の基本原理・一般理論と整合する犯罪関与行為処罰論の展開が可能になってくるものと考える。目下、犯罪関与行為処罰の基本原理についての再検討を進めているが、このような刑法それ自体の基礎的原理を見据えたうえでの総合的・立体的な研究手法(いわば、あえて採った迂回的な研究手法)によって、原理的齟齬を起こさない、より説得的な可罰的犯罪関与行為の理論を構築できることになるものと思っている。拙稿「Japanische Kultur und Strafrecht」における自殺関与罪に関する分析、ならびに、前年度内にまとめ今年度に刊行された拙稿「従犯の主観的要件の実体」における可罰的幇助行為の本質に関する検討は、共犯処罰の原理にかかわる考察を含んだ内容であるが、これらも合わせ、共犯理論の発展に寄与しうる基礎的な考え方の枠組みが整ってきたといいうる。今後、さらに具体的に犯罪関与行為を掲げ、それぞれの犯罪関与行為の可罰性ないしは不可罰性についての検討・検証をおこない、一定の答えを順次提示していきたいと考えている。
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