本研究課題の全体的目標は、「財産犯体系の再構築」を図ることにある。すなわち、財産犯をある統一的な観点から体系化することによって、その全体的構造を解明すると共に、それぞれ個別の財産犯の適用領域を浮き彫りにすることで、その相互の区別基準を明らかなものとするのである。ところで、これまでの学説においては、領得意思の有無を基準として不可罰な一時使用、毀棄隠匿罪、領得罪が区別されてきた。しかし、理論的に考察した場合、そのような行為者の主観によって犯罪を区別することは不当なのであり、また、そもそも領得概念そのものが明らかにならなければそのような領得意思の内容も決まらないはずである。 そこで、本年度においてはまず「領得の対象」とは何かについて検討することとした。ここでは行為者が当該客体を領得するにあたって、その客体のいかなる側面に着目して手に入れようとしているのかが問題となる。まず第一に、客体そのものが「領得の対象」であるとも考えられる。しかし、行為者は一般的に客体の価値に着目して、その客体を手中に収めることを考えているのであり、また客体に価値が化体しているからこそ所有権等の対象となって刑法においても保護されなければならないと考えられる。したがって、領得概念においても、その対象としてまず「価値」に着目する必要があるとした。
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