本研究課題の全体的目標は、「財産犯体系の再構築」を図ることにある。すなわち、財産犯をある統一的な観点から体系化することによって、その全体的構造を解明すると共に、それぞれ個別の財産犯の適用領域を浮き彫りにすることで、その相互の区別基準を明らかなものとすることである。昨年度においてはまず「領得の対象」とは何かについて検討することとした。本年度においては、昨年度の研究内容を踏まえて、「領得行為とその結果」について検討している。そこで、まず、財産犯一般の不法性について考察すると、所有権など「本権」に対する侵害から成り立っているのか、それとも、「本権」の所在を間うことなく、財産における「事実上の所持・管理」に対する侵害があれば十分とするのかという対立があると分析した。この点につき、後者の考えでは財産犯の不法内容を十分に基礎づけることができないとした上で、「本権」に対する侵害という意味で、財産における「利用可能性」の阻害が財産犯における可罰性を共通に基礎づけているとした。しかし、それだけでは、器物損壊罪と窃盗罪・詐欺罪などの財産取得罪とを比べて後者の法定刑が重いことを説明することができない。そこで、財産取得罪の客観的な不法内容を考察すると、それは、財産の「利用可能性」に対する侵害と共に財産の「価値性」に対する侵害という二つの側面から成り立っていると結論づけた。さらに、以上の観点を踏まえた上で、「電子マネー」にまつわる具体例を取り上げ、「領得行為とその結果」が「価値性」に対する侵害から成り立つと示唆した。あわせて財産取得罪相互の関係を検討し、具体的には(電子計算機使用)詐欺罪と横領罪の違いについて考察したところ、その区別基準が、財産に対する「事実上の管理・所持」の有無にあると結論づけた。
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