本研究は、製造物責任立法を初めとする無過失責任領域の拡大傾向などを背景として、損害賠償制度の救済法たる性質の妥当範囲を明らかにし、他の諸制度との相互関連性に着目した個別解釈論を検討することを目的とする。前年度において、ドイツの製造物責任における欠陥判断のあり方と賠償範囲に関する諸規範につき一定の知見が得られたことから、引き続き当該年度は、この点をさらに深く調査・検討する方針とした。 まず、欠陥判断のあり方に関連して、そもそも製造物責任は無過失責任であるといわれることが多いものの、過失責任といかなる意味で異なる責任であるかについてはわが国で見解が一致せず、問題となる。ドイツにおいては、製造物責任が危険責任であるか否かかが争われてきたが、近時は「無過失責任」などと表現された固有の責任類型と理解する見解が多数を占め、その際には指示・警告上の欠陥の判断を中心に、従来の危険責任とは異なり無過失の行為責任としての性質が強調される傾向にある。このようなドイツ製造物責任に関する学説の分析からは、(1) 欠陥判断は行為責任の要素を内包すること、(2) 欠陥類型により製造物責任の法的性質は異なりうること、が示される。このことから、わが国の製造物責任を考えるにあたっても、このような欠陥判断の構造分析を踏まえて検討することが有用となるものと考えられた。また、アメリカにおいては製造物責任が各種の事案類型ごとのルールとして発展してきており、欠陥に関しては一部で容易にこれを認めない場合もあるものの、総じて賠償額が高額であることを含めて消費者側に有利なルールとなっている。これらの知見は、さらに次年度以降に予定される理論的な分析を経てわが国の制度との対比軸を明確にすることにより、わが国の制度のあり方や課題を検討するために有用な枠組みとなることが期待された。
|