平成20年度の研究実績として「保険者の情報提供義務」『別冊金融・商事判例新しい保険法の理論と実務』を公表した。本稿執筆の問題意識、内容は保険法の立法プロセスにおける法制審議会等の議論をふまえ、以下のように展開されている。すなわち、新たな保険契約法の立法にあたり、法制審保険法部会は保険契約の募集時における保険者・保険募集人の情報提供義務に関わる規定の新設を検討したが、そこでは、保険法における規定の新設を了解事項としその内容の具体化が議論されたわけではなく、-その前段階となる-保険者側の情報提供義務を保険法の枠組み(私法の枠組み)のなかで規律していくべきか、あるいは、引き続き保険業法における情報提供規制または私法理論に委ねるべきか、が問題にされていた。その後、保険法部会における検討作業の経過としては、平成20年1月に「保険法の見直しに関する要綱案」が取りまとめられ、それが同年2月、要綱案どおりの内容で「保険法の見直しに関する要綱」として採択、法務大臣に答申された。しかし、この要綱およびそれにもとづく保険法案(平成20年5月30日に原案どおり参議院で可決、保険法が成立。平成20年6月6日公布)では、保険法の立法化にあたり保険金の支払時を含めて情報提供義務に関する規律を設けないという結論が示されており、このことは、情報提供義務に関し今後も保険業法における規制および私法理論を通じて保険契約者保護を図るという選択がなされたことを意味している。そこで、本稿では、まず、保険法において情報提供義務に関する規律を設けることの意義について保険法部会等の議論状況をふまえた検討を行い、さらに、要綱、保険法案に示された保険法部会での結論および保険法の成立を受けて、保険業法上の情報提供規制の現状に関し、その問題点や私法理論との交錯関係のもとで保険契約者保護に果たすべき役割について考察した。
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