本年度は、「家族生活の尊重」を保障するヨーロッパ人権条約8条の具体的な規範の中身を探るべく、近親婚を禁止する国内法規範に対して同条違反の判決を下した、ヨーロッパ人権裁判所2005年9月13日(B. L.対イギリス)判決を検討する研究会報告を行った。この判決のヨーロッパ人権裁判所判例法上の位置づけを探ることにより、ヨーロッパ・レベルで、「家族を形成する権利」が具体的にどのような形で保護されているのかを知ることができる。そのような意味で、検討を行う意義は少なくないものと考えている。 また、「家族法と人権-イレーヌ・テリー教授の示唆する『自然』概念の方向転換--」という論文も公表した。性同一性障害者が民事身分上の性別変更を求めることができるかという問題や、同性カップルにどにょうな法的保護を与えるかといった問題を議論する際にしばしば援用される「人権」概念の具体的内容について、フランスの家族法学者であり社会学者でもあるイレーヌ・テリー教授の論文を参照しながら考察を加えた。イレーヌ・テリー教授の考察の前提には、まさにヨーロツパ人権条約規範が、フランス家族法に大きな影響を与えているという問題意識があり、本論文には、フランスの一家族法学者のヨーロッパ人権条約規範の影響に対するリアクションを探るという意味がある。 その他にも、「法定相続分の意義」と題する論文を公表した。日本法を主たる検討対象とする論文ではあるが、かねてからヨーロッパ人権条約がフランス相続法に与えた影響を研究してきたことの成果を踏まえたものである。
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