研究概要 |
本年度の成果は、大きく分けて2点ある。ヨーロッパ人権裁判所の動向そのものを扱うことができなかったが、フランス国内における家族法と人権にかかわる問題と、家族というよりも、民法規範と人権にかかわる問題を扱った。もちろん、このようなフランス国内の動向は、ヨーロッパにおける動向を反映してのものである。 第1に、フランスにおけるパクス法改正についての研究を行った。パクスというのは、婚姻をしていない異性あるいは同性のカップルが婚姻をすることなく、共同生活をするための契約を行うことができる制度であるが、2006年に法改正がなされた。そこで、どのような改正がなされたかを紹介する論稿を執筆した(未刊行であるが、日仏法学25号に掲載予定である)。同性カップルの人権という問題も、今後日本社会において議論が進展するものと思われるのでフランスの動向は参考になると思われる。フランスでは,同性カップルに婚姻は認めず、婚姻の外にパクスという制度を設けることで対処している。そこでは、親子・家族という観念とは切り離した上で、カップル当事者間に限り、婚姻と同様の効果を認める制度を構築していることを紹介した。 第2に、フランスにおける人権と私法の関係についての専門家である、パリ第12大学のムスタファ・メッキ教授の講演会の通訳を行うとともに、講演原稿の翻訳を行ったことである(未刊行であるが、北海道大学GCOEによる新世代法政策学研究創刊号に掲載予定である)。メッキ教授は、「私法における一般利益と基本権」というタイトルで講演を行った。そこでは、1990年代以降顕著となった人権概念の増大現象には危険性がある旨指摘している。日本国内では、私法規範に人権概念が入り込むことをむしろ歓迎する傾向が強いにもかかわらず、歓迎しつつもそこに潜む危険性を指摘している点が興味深いものであった。
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