平成19年度は、証券市場の効率性と企業統治の関係を明らかにすることを目的として研究を行った。特に、IPO市場において、敵対的企業買収防衛措置がどのように評価されているのか否かを中心に研究を進めた。具体的には、この問題について研究の蓄積がある外国語文献の収集と分析を行った。その際、法学者の手による理論的な研究にとどまらず、経済学者の手による理論・実証研究をできるだけ参照し、実態に即した分析を行うように努めた。その成果の一部が、「株主間の議決権配分-一株一議決権原則の機能と限界-(3)(4)」である。アメリカでは、最近、機関投資家からの強い反対のため、上場会社が新たに敵対的企業買収防衛措置を導入することが困難な状況にある。一方、IPO市場では、ほとんどすべての会社が敵対的企業買収防衛措置に対する投資家の評価が著しく異なることを明らかにすることができた。このような差異が生じた根拠として、IPO市場とその後の市場では市場構造が異なること、投資家の能力・合理性に問題があることなどが主張されている。先に挙げた論文において、このような見解について一定の分析を行つたが、未だ不十分な点も多い。しかし、IPO市場であれば企業統治の仕組みについて個々の会社に自由を認めるべきという主張を再検討する必要性があることは明らかにできたのではないかと思われる。また、証券市場を通じて企業統治の仕組みを改善することに一定の限界があることを明らかにすることができた。
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