平成20年度は、平成19年度の究成果を踏まえて、各種の研究会で研究報告を行った(たとえば、RIETI「企業統治分析のフロンティア」。HPに報告資料を公表予定。)。特に、東京証券取引所が、議決権種類株式に関する上場企業を制定したことを受けて、筆者のこれまでの研究成果から、同基準がどのように評価されるかを検討した。その結果を簡潔に述べれば、東京証券取引所の基準は過剰規制ということを明らかにした。その理由として、第1に、東京証券取引所の基準は、NYSEの基準から大きな影響を受けている。しかし、アメリカ法には州会社法に議決権種類株式に関する規制が存在しないが、日本法には会社法115条という規制が存在する。そのため、会社法の規制に重畳的な規制を東京証券取引所が課していることになる。もちろん、重畳的規制によって必要十分な規制が達成されることは否定できないが、しかし、次に述べる理由から、過剰規制といえる状態にある。第2に、東京証券取引所は、議決権種類株式の存在意義である、Cash Flowに対する権利とControiに対する権利の比例関係の分離に懐疑的である。しかし、そうであるならば、議決権種類株式を全面的に禁止することも検討に値する。東京証券取引は、上場会社が議決権種類株式を発行することを認めつつも、Cash Flowに対する権利とControiに対する権利の関係を基準とする規制を設けている。そのため、この点に関する東京証券取引所の立場が非常に不明確な状況にある。 また、開示書類の虚偽記載を原因とする民事責任に関する裁判例について、研究を行った。成果としては、開示書類の虚偽記載と因果関係のある損害は、(1)高値取得損害、(2)原状回復的損害賠償、(3)株価下落損害の3つに分かれること、(1)〜(3)の区別と民法709条や金商法の民事責任の規定の関係を明らかにした。
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