本年度は、(1)わが国の不動産担保権の侵害とその救済方法に関する判例・学説を整理・分析し、(2)同様の問題に関するドイツ裁判例の整理・分析に着手した。 上記(1)について、本年度は、先行業績の成果等を踏まえ、抵当権侵害の態様を5つに類型化し(目的物の物理的侵害、目的物の第三者による利用・占有、抵当権行使の妨害、無効登記、他の債権者による強制執行)、要件充足の判断に重点を置いた考察を行った(判例・学説で議論の蓄積があるのは前二者)。まず、物権的請求権に関しては、抵当侵害という要件が重要であり、抵当権の効力の及んでいた符合物・従物が搬出された場合の取り扱い、および、抵当不動産を第三者が利用・占有することによる抵当権侵害と近時の2つの最高裁判決(一定の場合に肯定)、その後の学説における要件・効果の理論の研究の進展に注意しなければならない。次に、損害賠償請求権に関しては、抵当権侵害によって抵当権侵害によって抵当権者に生じる損害とは何か(損害の発生)ということが重要であり、ここでは、担保目的物の価値と被担保債権額との関係に注意しなければならない。また、学説では、第三者による目的物の滅失・毀損の際に所有者・抵当権者双方に損害賠償請求権が認められるかということが問題とされるのに対し、裁判実務では、それほど問題となっていないことを確認した(むしろ、抵当建物の第三取得者による建物の取壊しという事例が多い)。その他、損害算定の基準時、具体的な損害額の認定方法、目的物を占有することによる抵当権の侵害と損害賠償といった問題についても注意する必要がある。 上記(2)について、本年度は、ドイツの文献・裁判例を収集し、判例集(事案・判旨)の作成を開始した。ここでは、「抵当権の担保を危険にする毀損」という要件が重要と考えられることから、この要件充足の具体的判断に重点を置いて来年度の研究を進める予定である。
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