(1) 研究成果の具体的内容-遺留分権の現代的意義を、憲法秩序における遺留分権の位置付けを踏まえ、対立する利益との関連で検討し、日本私法学会にて研究成果を報告した。憲法秩序における遺留分権の位置づけを考える契機として、ドイツの連邦憲法裁判所2005年決定の決定理由を分析し、遺留分の正当化根拠として家族の連帯を重視する傾向を見出した。また遺留分に対立する利益に関しては、遺言者が財産を拠出して設立した財団および遺言者が経営する事業が遺留分により制限を受ける場合を挙げ、ドイツにおけるこれらの問題をめぐる解釈論を検討した結果、いずれの場合にも、遺留分を制限する傾向が見出された。わが国において遺留分の正当化根拠を家族の連帯に求めることは、日本国憲法および民法の基本原理を前提とすると、困難であり、遺言の自由を制限することが正当化されるのは、遺留分が遺族の生活保障の意義を有する場合に限られるとする結論を導いた。今後さらに社会保障制度や憲法に関連付けながら、相続法のあるべき姿を検討し続ける必要性を指摘した。 (2) 意義・重要性-少子高齢社会を迎え、社会保障制度への期待が高まる現在の社会においては、相続法の存在意義が変化せざるを得ないという状況にある。とりわけ遺言者によっても奪うことのできない最低限度の相続権である遺留分権については、遺言者の意思を尊重する立場から、批判に晒されるようになっている。また立法においても、遺留分権は、事業に携わる経営者が死亡する際に事業承継を妨害するという観点から、遺留分を一定の要件のもとで制限することを認める法律が制定された。本研究は、このように相続法が過渡期を迎えているという状況下において、相続権とりわけ遺留分権の存在意義を再検討し、わが国の将来の相続制度を検討する上で、理論的な基礎を与える意義を有する。
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