1 日本における有毒物質への曝露による人身被害・環境損害(通常は被害者多数の不法行為であることから、「大量不法行為」と呼ぶ)の法的救済制度に関して、文献資料を収集し、先行研究の整理に着手した。その一環として、ベルリンでの国際学会において、「Administrative Compensation System and Complex Tort Litigation in Japan」という標題で、水俣病問題を題材とした日本の不法行為訴訟と行政救済制度に関する報告を行った。 2 日本の法制度との比較対象として、アメリカの法制度の調査研究に着手した。アメリカでは、大量不法行為を、クラス・アクションや広域係属訴訟といった特別な方式で処理している。そこで、最新の知見を得るため、クラス・アクションをテーマとするシンポジウム(於ペンシルバニア大学)と広域係属訴訟をテーマとするシンポジウム(於テュレーン大学)に参加し、文献資料の収集を行った結果、(1)1997年のAmchem連邦最高裁判決以降、連邦レベルでクラス・アクションが認証されにくくなった状況に加えて、完全州籍相違でない州際クラス・アクションにも連邦裁判所の管轄権を拡げる2005年クラス・アクション公正法を利用した被告側によるクラス・アクション封じが起こっていること、(2)そのため、広域係属訴訟が連邦と一部の州において活用されてきていること、(3)広域係属訴訟において新たな争点が生じていること-和解のための広域係属訴訟の可能性、一つの大事件(例:911事件やハリケーン・カトリーナ災害)から直接・間接に生じた多種多様な被害(例:人身被害や物的損害、保険請求に関する紛争)を一つの広域係属訴訟としてまとめて処理する可能性-、等を知ることができた。
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