経営者に対する責任追及制度をどう捉えるかは、倒産処理手続の目的ないし役割をどう考えるかにもつながる。昨年度までに得られた研究成果を下に今年度公表した論文は、アメリカ合衆国連邦倒産法が、近年どのような機能を果たしているのか、その中で経営者の地位がどのように扱われているのかにつき論じたものである。特に大規模倒産事件については、新たに債務者に与信を行う債権者を中心に、倒産手続の専門家や経営者たちが、自己の利益追求を目的として倒産手続を利用しており、彼ら以外の関係者の利益には十分な配慮がなされておらず、しかも、かかる倒産処理手続を経て「再建」したはずの会社は、数年後に再び経営破綻に陥っているという憂慮すベき状況があった。特に経営者については、その責任が問われることもなく、逆に高額の報酬を受け取っているとの事実さえ見られた。アメリカ合衆国では、長らく債務者救済の考え方が強く、現在、経営者の責任を問うとの概念はあまり見られないように思われる。上記の合衆国の状況は、倒産処理手続の意義との関係で、倒産手続での経営者の地位をどのように考えるかにつき、多くの示唆を与えてくれる。 わが国の倒産処理手続には、取締役等に対する損害賠償請求権の査定制度が新たに設けられたが、実際に用いられる事案はあまり見られない。むしろ、倒産手続内での経営者が有する債権の実質的な劣後化、経営者による会社債務の個人保証とそれによる破産といった、一種の曖昧な方法で経営者が事実上の責任を問われてきたということができよう。その理由の一つは、いかなる場合に、いかなる責任を問いうるのかが明確でなかった点に求めることができると思われる。経営者の責任追及の制度を明確に法制度として取り入れているのがイギリス法系の国々である。そこで、イギリス法を中心に(オーストラリア法も参照しつつ)、経営者の責任追及制度の具体的な手法及び基準についての検討を行った。
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