本年度は、1970年代からの米国独立取締役制度の歴史的展開について研究を行った。米国において大規模公開会社の独立取締役制度が確立していくのは1970年代からであることから、それらの経緯について可能な限り詳細に検討を行った。具体的には、ペン・セントラルの破綻に関するSECの調査報告書、アイゼンバーグ、コフィー等の当時の主要論者による大規模公開会社取締役会改革論、法と経済学者による独立取締役制度導入への反論、NYSE上場規則による独立取締役制度導入の強制、1970年台から80年代にかけての判例の動向、アメリカ法律協会によるコーポレート・ガバナンス原則の策定、サーベンス・オクスリー法による独立取締役制度の強化等について、これらの制度改革を支える思想的背景まで掘り下げて検討を行った。また、米国投資会社法の独立取締役制度についても制度改革が行われていることから、その動向についても検討を行い、1970年投資会社法改正による独立取締役制度の強化、1970年〜80年代における判例の動向、1992年のSEC報告書による独立取締役制度強化の勧告、1999年のSEC規則改正による独立取締役制度の強化および同時期に行われた投信業界による独立取締役制度強化の提案、2003年投信不祥事を受けての独立取締役制度強化の動向についてそれぞれ検討を行った。以上の結果、独立取締役制度の要否を巡って様々な議論が交わされたものの、独立取締役制度を維持・強化する方向で一貫して制度改革がなされており、その背景には金融不祥事が生じる都度、経営者、投資銀行家、弁護士等の少数の人間が資本市場・株式会社を支配することにより、個人の尊厳、機会の平等、民主主義といった米国市民社会を支える理念が脅かされ、それに対し一般市民の代表者としての独立取締役制度を維持・強化していると十分に考えることができる、との結論に至った。
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