本年度は任意後見制度の検討が中心となった。近年、ドイツにおいては、法定後見制度たる世話の発動を極力回避し、委任契約による任意代理を用いた青年後見が強調されている。この背景には、世話法の施行後、世話制度の利用が年々増加し続けたために、それに伴って、裁判所の負担、ならびに、国庫の財政の負担が著しく増大したということがある。このようなドイツ成年後見法における任意代理の強化という方策は、そもそもは国家の財政負担の軽減津という実際上の問題から出発したとはいえ、本人の自己決定の尊重に資する点では一定の評価が出来るように思われ、その限りでは、わが国にも一定の示唆を与えるものと思われる。そこで、ドイツの任意後見制度の概要、事前配慮措置である任意代理と事後的な法定後見制度である世話との関係が争われた裁判例の検討などを行った。このようなドイツ法の議論は、わが国における法定後見と任意後見との関係、その他、任意代理人の濫用行為をいかに防止するか、医療行為への同意なが身上監護についてさらに踏み込んで権限を与えるべきかどうなどについても、わが国に重要な示唆を与えるものであった。以上の内容については、「ドイツ成年後見法における事前配慮措置」のテーマで、第48回中四国法政学会において研究報告を行った。 平成18年7月6日、東京地方裁判所は、任意後見制度に関する判決を下している。本件は、いわゆる移行型の任意後見契約の締結・解除の効力について委任者の意思能力の有無が問題となった事件であるが、本裁判所は、本人が任意後見契約を締結するに至った経緯などを仔細に検討した上で、本件任意後見契約が本人の意思に基づいて締結されたことを認定している。本裁判例について、判例タイムズ1256号に「任意後見契約と意思能力」のタイトルで判例評釈を公表した。
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