本研究は、.(1)船舶衝突事件における「過失」及び「過失と損害との因果関係」の立証のあり方、(2)船舶衝突債権の消滅時効の起算点の解釈の問題を課題に据え、船舶衝突法の一般不法行為法に対する独自性を探ることを目的とする。船舶衝突を規律する国内法たる商法の規定には不備な点が多い。よって、本研究を遂行することは、裁判実務および海運実務、将来の船舶衝突法制の検討に関して重要な意義を有する。本年度当初は、(1)の課題を中心に研究を進めることにし、それに必要な国内外の資料収集を中心に行うことを予定していたが、国内及び米国の大学にて資料収集を行う過程において、(2)の課題に関する資料が豊富に見つかり、この課題を優先的に扱った方が、研究目的全体の達成につき、効率的でることがわかった。そこで、本年度は(2)の課題を中心に研究を遂行することにした。船舶衝突債権の消滅時効の起算点の解釈については、平成17年に最高裁が民法724条により定めるとの解釈を示したが、1910年の衝突条約の制定過程、フランス・英米におけるこの点に関する立法の経緯、判例、さらには、わが国での学説・判例の検討及び海運実務(保険実務を含む)を調査・検討する中で、船舶衝突の一般不法行為に対する特異性を考慮すれば、この問題を民法724条により解決するのではなく、商法の解釈としてその起算点は衝突時とすることが妥当ではないかとの一応の結論を得た。そして、この成果につき早稲田大学海法研究所判例研究会にて報告を行った。しかし、この課題については、英米・フランス等の立法の経緯をもう少し深く調査が十分ではない箇所もある。他方、(1)の課題についても、本年度中に、ある程度の資料は収集を行ったが、未だ不十分であるため、次年度は、まず、それを補い、(2)の課題についての更なる研究と、この課題についての研究を重点的に進ある予定である。
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