商法789条1項の定める船舶衝突より生じた債権の消滅時効の起算点の解釈および船舶衝突事件における立証の在り方について、比較法的な検討を中心として本研究を遂行してきた。3か年の研究の結果、現代の船舶衝突法においては、当事者間の損害の公平な分担というよりもむしろ、商取引の分野における問題の迅速かつ画一的な解決が優先されるべき場合もあると考えられ、船舶衝突法における法の不存在を、民法の一般不法行為法の原則によって補うのではなく、船舶衝突の実態に沿って、独自の解釈が確立される必要性があるとの考えを導くことができた。すなわち、立証責任の問題については、英米法における種々の立証責任原則を参考に、立証責任の転換を必要に応じて行い、また、時効の起算点の解釈についても、それを衝突時と解するなど、この領域では、被害者保護の要請を優先させるのではなく、迅速な問題の解決を基礎とした解釈論を展開すべきであるとの結論に至った。
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