平成20年度は、予防概念の法規範性と適用規則に関する従来の学説の整理・評価をふまえたうえで、カルタヘナ議定書の起草過程・執行過程の実証的検討を遂行した。その成果は以下の通りである。 ・国際法上の予防概念に関しては、学説上、国家に特定の行動を直接義務づけるような「準則(rule)」としてではなく、そうした規範の定立・解釈に影響を与える「原則(principle)」として把握する理解が近年有力に主張されるようになっている。しかし他方で、そうした原則としての予防概念の機能やその射程についてはこれまで必ずしも十分に実証されてこなかった。 ・カルタヘナ議定書においては、事前同意制度の定立・運用において予防概念が考慮されており、それは「原則」としての同概念の機能の展開として理解することができる。そして同制度の運用をめぐっては、関連する既存の国際法制度で発展してきた他の原則(均衡性・無差別等)が意識されつつあり、予防概念の機能の射程を考えるうえでそうした原則との相互作用が重要な要素であるとの示唆を得た。 以上の成果のうち、学説の検討の成果の一部については、拙稿「予防原則」環境法政策学会誌11巻(2008)等で既に公表済である。またカルタヘナ議定書の実証分析の成果についても、論文等の形で公表を行う予定である。
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