本研究では、情報技術分野におけるイノヴェーション促進が最大限に実現されうる制度設計のあり方の模索を目指して、第一に発明開示要件の理論的意義と具体的な要件充足基準についての基礎的研究、第二に発明開示要件の判断基準とクレーム解釈論の相互間で整合性の取れた解釈理論の可能性の検討、第三に情報技術分野を対象として特許制度の発明保護機能と発明開示機能がより望ましい形で調和した統合的な制度設計の考察、を主たる目的とするものである。昨年度(平成19年度)は、主として第一および第二の目的に対応した研究を行っており、その研究実績の一部については既に公表を行ってきたところである。引き続いて、平成20年度においても、発明開示要件一般についてアメリカ、欧州を対象とした比較法的見地からの研究に取り組んでおり、その研究成果についても最終的には公表することを予定している。また、平成20年度において新たな視点から取り組んだ検討事項として、侵害訴訟における特許無効の抗弁(特許法104条の3)の事由としての発明開示要件の充足という問題が挙げられる。これは、特許出願段階で発明開示要件の充足を評価されたとしても、権利行使段階である特許権侵害訴訟の局面で、特許無効の抗弁として発明開示要件の非充足が主張され、結果として特許権者の主張が棄却されるという裁判例が幾つか現れている事態を踏まえたものであり、このような事態はイノヴェーション促進に無視し得ない多大な影響をもたらしうると考えられるため、重点的に検討を行った。その成果の一部については判例研究の形で公表した。その他、情報技術関連の特許権行使の局面における特殊性についても分析検討を行った。この分析検討の成果についても一部公表した。 以上の検討を踏まえて、第三の目的たる「イノヴェーション促進を考慮した情報技術関連発明の特許法による保護のあり方」へ向けた望ましい制度設計論について留意すべき項目の明確化を図った。その包括的研究成果についても早急に取りまとめの上で公表することを予定している。
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