医学研究においては試料提供者である死者及び遺族の尊厳やプライバシーを保護するための十分な配慮を求められる。その原則は法医学領域においても異なることはない。しかし、法医学領域では、人体試料採取の始まりか遺族の同意を必要としない刑事手続(強制処分)であることや、鑑定のための臓器保管と研究教育目的の保存と利用が連続的になっているために、人体試料の取扱いについてあいまいな部分が残されている。捜査や再鑑定目的での試料の取扱いに関する法的整備が必要である。 本研究においては、検視・検案時の試料保管の有用性を経時的に調査するため、解剖体試料の保管を開始した。また、CT検案が行われた死者からの試料は、実務上遺族と接する機会がなく、遺族の同意を得ることができないため、研究者による試料採取は行わず、司法警察員による検視時に採取された試料の残部を保管することとした。これらの有用性については引き続き検討を行う予定である。 また諸外国に関する知見として、土葬中心の諸国においては埋葬後の再鑑定が法的に規定されており、それらのシステムが毒薬物の再捜査、再鑑定に対応していると考えられた。地域によっては火葬の場合には、別途検死を要するとのシステムが採用されていた。火葬中心の我が国においては、埋葬前の試料保管がより重要であることが示唆された。今後はより詳細に諸外国におけるスクリーニング検査の実情を調査する予定である。それらの結果等をふまえて人体由来試料保管をどのように行うことが望ましいかを検討し、そのためにはどのような法整備が必要であるかについても考察を加えることとする。
|