研究概要 |
司法解剖後の人体由来試料保管に関し、国内複数の法医学教室を対象に調査した結果、保管期間(5年〜無期限)や対象試料(血液、尿、体毛、血痕ガーゼ等)が各機関において区々であることがわかった。その理由として、解剖後の人体由来試料について、死体解剖保存法に基づく教育研究目的の保管以外の保管には, 法的な根拠規定がなく、また学会としての統一基準も存在しないことから、当該機関の保管庫の容量や伝統次第でルールが決められているということが考えられた。 比較法的に考察するため、わが国と法制度が類似しているドイツ及びわが国と法制度が異なるオーストラリアについて文献的調査及び実地調査により検討した。ドイツは検視業務を警察が担い, 死因究明の要否を検察が判断し, 法医学研究所に嘱託して解剖が行われる。解剖後は試料が保管されるが, 検察官から法医学研究所に当該事件が終了した旨の通知がなされ, その後試料を処分するとのことである。ただし, 土葬が中心の同国では, 犯罪が発覚した場合, 墳墓を発掘して遺体から試料を採取し, 毒薬物分析が可能である点においてわが国と事情が異なることに留意すべきである。オーストラリアでは死因究明の責任者はコロナーであり, コロナーの指示で解剖も行われる。試料の保管についてもコロナーの責任において行われる。また, 訪問したヴィクトリア州の法医学研究所では, 試料は番号で管理され, コンピューター上でその種類と所在が閲覧できるシステムが構築されていた。 以上より, 火葬中心のわが国においては一層人体由来試料保管の必要性が高く, 諸外国のシステムを参考にして人体由来試料保管の法整備及び確実な保管システムの構築が必要であると考えられた。
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