本研究の目的は、中国の環境訴訟における被害救済の阻害要因について、訴訟準備段階から判決の執行に至る全ての過程を対象として検討し明らかにすることにある。3年の研究機関の2年目であたる本年は、公害被害の賠償を認容する判決が出たにもかかわらず判決の執行が滞っている福建省寧徳市の環境訴訟について追跡調査を実施するとともに、甚大な鉱毒被害が発生している広東省韶関市のケースについても継続して調査し、これらの考察結果を論文にまとめ、それぞれ『名古屋大学法政論集224号』および『季刊環境研究150号』に発表した。また、福建省寧徳市の環境訴訟については、6月に行われた環境法政策学会の分科会において訴訟に至る経緯や判決の概要、判決執行の障害などについて報告した。これらの調査・研究は、中国における公害被害の現状とその救済を阻害する要因を明らかにするものであり、環境法の理論研究に貢献するのみならず、国際協力における開発支援のあり方を考える上でも重要な示唆を与えるものと思われる。 さらに、新たな訴訟案件についての調査対象として、2008年9月に上海市近郊の工場から排出される粉塵および騒音被害を選び、汚染被害者および訴訟代理弁護士へのヒアリングを開始した。このケースの汚染源も福建や広東のケースと同様に国有企業であり、被害状況を明らかにすることすら困難な状況など他の公害被害地域と共通の特徴が観察されている。また、2009年3月には炭鉱業の盛んな河北省唐山市において、石炭火力発電所の焼却灰(フライアッシュ)による粉塵被害の発生している地域を視察し、訴訟代理として提訴を検討している弁護士に対するヒアリングを行った。 以上のように、複数の環境訴訟における被害救済の阻害要因について比較検討を進め、中国の専門化とも意見交換を図ることにより、中国で検討が始まっている公害被害者の行政救済制度にも貢献できればと考えている。
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