平成21年度は、知的財産法における間接侵害という本研究課題について、当初予定にしたがい、ドイツ法の研究を発展させつつ、わが国民法学における物権的請求権について研究を進めた。 まず、ドイツ法の研究に関しては、上野が平成21年9月よりまさにドイツ国ミュンヘンに所在するマックスプランク研究所に留学していることから、幸いにして極めて有益かつ重要な知見を得ることができた。実際のところ、ドイツでは、本件課題に関する詳細な論文が最新の雑誌上で多数公表されるなどしているばかりでなく、裁判例もヨーロッパ全体でさまざまに登場しており、生の議論を現場でリアルタイムに体感できている貴重な環境にあるといえる。しかも、いわゆる番組視聴サービスをめぐってわが国に蓄積されつつある事例および議論は、ドイツをはじめとするヨーロッパにおいても注目を集めており、これにより本件課題に関するインタラクティヴな研究の深化が可能となった。このように、ドイツ留学は、当初予想もしなかった大きな成果をもたらしたことは強調したい。 他方、民法学との比較研究に関しては、わが国民法学における物権的請求権をめぐる従来および最新の議論をフォローすることはもちろんのこと、比較法的観点から見たわが国民法の特殊性、とりわけ不法行為の効果としての損害賠償請求と物権的請求権としての差止請求に関して、その位置づけや現行法の制定経緯を含めて、その意義と問題を検討した。その結果、民法学の議論からは予想通り有益な示唆を多数得ることができ、知的財産法と民法学との総合的考察を目的とする本件課題の実戦に向けて重要な成果を得たものと認識している。
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