平成22年度は、知的財産法における間接侵害という本研究課題について、当初予定にしたがい、これまでの研究、すなわち民法上の物権的請求権、外国法、知的財産法全体といった視点からの間接侵害の研究をまとめた上で、わが国における同問題について、総合的な観点から解釈論・立法論を展開すべく研究を進めた。 研究代表者は同年度ドイツ国ミュンヘンのマックスプランク研究所に滞在しており、ちょうど2010年5月12日にドイツ連邦通常裁判所(BGH)がワイヤレスLANをめぐる事件で「妨害者責任」を肯定する判決が出たことにより、本問題に関する極めて有益な議論にリアルタイムに接することができた。また、日本においても2011年1月に番組視聴サービスをめぐる2つの事件につき、最高裁が知財高裁判決を取り消す重要な判決を出したことによって大きな議論を呼んでいる。こうした議論が本研究に相乗効果をもたらしたことはいうまでもない。 また、ヨーロッパではこの問題が著作権法だけではなく商標法や特許法といった領域に関しても盛んに議論されており、その比較を通じた総合的考察ができた。さらに、英米における間接侵害についても最近の事例など検討を行った。 このように、絶妙のタイミングと場所で本研究を進めることができたことは幸運であった。その成果は、論文のほか、2011年5月23・24日のマカオIPセミナー「知的財産権の間接侵害」における招待講演等の学会において発表していく。実務的にも、本研究によって得られた知見は、今後の解釈論に資するのはもちろん、文化審議会等において展開されることが確実な立法論にも有意義な示唆をもたらすものと考える次第である。
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