(1) 継続研究 著作権法、著作権等管理事業法、信託法、信託業法を時間的パースペクティブからの比較考察を引き続き行った。 その研究の中で、著作権信託契約と出版権設定契約の類似性が明らかになってきた。すなわち、両契約ともに、その基礎に当事者の信頼関係が存在することを前提に、出版権者・受託者はそれぞれ特有の義務を負い、契約締結後には著作権者が著作物の利用ができなくなるにもかかわらず、結局のところ、著作権者のコントロールがその著作物の利用に及ぶ。これまで、出版権設定契約の法的性質について詳細に論じられてこなかったが、このことから出版権設定契約を信託契約と見ることができると解される。 さらに、信託法が信託財産を、旧信託法が「財産権」としていたところを「財産」にしたことにつき、著作権の支分権をさらに細分化して、著作物利用権(著作権法63条)と同様に、地理的・時間的に制限した形で信託を設定できるということが明らかになってきた。 (2) 海外調査 信託発祥の地である英国に赴き、当地での著作権信託を状況を調査した。英国の知的財産法および信託法の複数の研究者と議論をする中で、著作権の信託は当然可能であるが、あまりなされていないということが彼らの一致した見解であった。 JASRACに相当するPRS for Musicの契約書を検討すると、信託ではなく、独占的ライセンスで対応している。これは独占的ライセンシーに差止請求等が認められるという英国の著作権法制度・判例が前提となっており、信託を設定しなくても、ライセンシーが権利者と同等の権限を持ちうるためであった。信託によらざるを得ないわが国の法制は、信託法理によってライセンス制度の欠陥を補っているという構造を有していることが明らかになった。
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