本年度は、最終年度であり、交付申請書に記載したとおり、これまでの研究をまとめ、学会発表および論文といった形で、研究成果を積極的に公表することを目的としてきた。 まず、日本私法学会において、「独占的ライセンスの構造および効力に関する基礎的考察」というタイトルで、著作権の独占的ライセンスの法的性質について、これまで学説は単なる無名契約であるとしてきたことに対して、信託の性質を有するものであるということを指摘し、その結果として、独占的ライセンシーが著作権の侵害者に対して差止請求をすることを可能とする理論的基礎を与えた。また、この報告を論文化したものが、日本私法学会会誌である「私法」73号に掲載されることが決まっている。 また、本研究開始時には、信託業法の全面改正と現行信託法の制定により著作権信託の活用については大きな期待がされていたが、現在では、著作物の無体物性などを理由に、実際に信託を設定した場合に不明な点があることが指摘されてきた。この点につき、信託法が信託財産を、旧信託法が「財産権」としていたところを「財産」にしたことにつき、著作権の支分権をさらに細分化して、著作物利用権(著作権法63条)と同様に、地理的・時間的に制限した形で信託を設定できるということを明らかにし、著作権信託の新たな活用形態を示した「信託法における『財産』と知的財産-独占的ライセンス形態としての知的財産信託-」を執筆済みであり、これから公刊される『奥島先生古稀記念論集』(成文堂)に掲載されることが決まっている。
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