本年度はまず、1946年から48年にかけて開廷された極東国際軍事裁判(通称東京裁判)に判事として出廷したインド人ラーダービノード・パール(1886-1967)について研究を進めた。 パールについては、これまで「A級戦犯無罪」を主張したいわゆる『パール判決書』をめぐって議論がなされていたものの、その判決書の細部に踏み込んだ体系的研究は皆無に等しかった。また、彼の東京裁判以外での活動やその思想については、等閑に付されていた。そのため、本研究では(1)『パール判決書』の詳細な分析に基づく研究、(2)パールの伝記的研究、(3)パールの思想に関する研究、の3点を軸に研究を進めた。その成果は著書(『パール判事-東京裁判批判と絶対平和主義』)として出版し、新聞・雑誌などの書評で多く取り上げられた。 次に、アジア初のノーベル文学賞受賞者のラビンドラナード・タゴールと日本の関係について、研究を進めた。本年度はタゴールの5度にわたる来日関係の史料の収集を行った。史料についてはインド及び日本の文書館(インド国立文書館、外務省外交史料館、国立国会図書館憲政資料室)、図書館(カルカッタ中央図書館、国立国会図書館、早稲田大学総合図書館、東京大学附属図書館、北海道大学附属図書館)で収集し、その整理を進めた。 また、タゴール来日と日本のアジア主義の展開の関係を調査し、研究を進めた。特にタゴール来日に貢献した頭山満をはじめとする玄洋社の思想と、大川周明をはじめとする猶存社系アジア主義者たちの思想を議論の対象とし、史料の収集と分析に努めた。さらに、当時の日本の国家主義運動の展開についても考察を進め、論文などの執筆を精力的に展開した。
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