本年度は、アジア初のノーベル文学賞受賞者のラビンドラナード・タゴールと日本の関係について、研究を進めた。昨年度に引き続き、国内外の図書館・文書館(国立国会図書館、大倉山精神文化研究所付属図書館、早稲田大学付属図書館、インド国立文書館)において史料収集を行い、その読解と整理につとめた。そして、その作業にもとづき、論文を執筆・発表した。(「タゴール、現る-大正初期の「タゴール熱」と初来日を巡って-」『大倉山論集』55号、2009年3月。) ここでは、(1) タゴール初来日の経緯、(2) 1915年・16年に沸き起こった日本におけるタゴールブームの実態、(3) タゴール来日に伴う日本のメディア・論壇の動向、(4) ブームがバッシングに変容する言説のプロセス、(5) それに伴うタゴール自身の反応を明らかにし、この一連の事態が近代日本のアジア主義にとって、極めて重要な思想変容のポイントであったことを明らかにした。 また、アジア主義の思想と系譜に関する研究を進め、その中に来日インド人との関係を位置づける作業を行った。これは(1)「アジア主義、その思想と系譜」原武史編『政治思想の現在』(河出書房新社、2009年)、および(2)「アジア主義とナショナリズム」『アジアが生みだす世界像-竹内好が残したもの』(SURE、2009年)として発表した。ここでは特に、「平等な主権」を主張した初発のナショナリズムとアジア主義が、次第に「支配と拡張」の論理へと変容するプロセスを明らかにし、それと来日インド人の関係について議論を展開した。
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