本研究の目的であるブレア政権期イギリスの対EU政策を分析する作業として、構成主義に基づく理論枠組の形成を行った。構成主義的アプローチは、主に次の三つのレベルに整理し、体系化されうる。第一に、ある社会構造や事象を、言説ないしは観念として社会的に構成されたものと捉える「社会構成主義」のアプローチである。主に社会学の領域で展開され一定の蓄積を見たアプローチであり、言説分析を有力な方法的基盤とする。第二に、「政策パラダイム」や「知識共同体」の機能に着目しつつ、政策や制度の形成を論ずる「アイディアの政治」のアプローチである。これらは、比較や事例分析といった方法に拠りながら、「社会構成主義」と比べてより具体的な内容を伴う公共政策やプログラムを分析対象としている。第三に、さらにミクロな過程に焦点を当て、あるアイディアやシンボル、レトリックによって様々なアクターの認知がどのように変化し、その結果ある政治的帰結へ向けて「動員」されたかに重点を置くアプローチがある。「フレーミング理論」がその代表であり、統計的な手法なども用いられる。これらの三潮流の統合と体系化を図りながら、トータルとして「三層モデル」と呼ぶべき分析枠組を形成した。 この枠組に基づきつつ、ブレア政権期イギリスの対EU戦略を、様々な対EU政策やEUへのコミットメントを通じて(メゾ・レベル)、既存の「ヨーロッパ」言説の転換を図り(マクロ・レベル)、その言説をも利用しながらイギリス市民社会を「ヨーロッパ」的方向へと動員しようとする(ミクロ・レベル)試みとして位置づけるための準備的作業も行った。
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