本年度は、ブレア政権期の労働党の対EU政策の転換について、その要因について検討することを第一の目的とし、特に労働党内の力学の観点から、その転換と挫折の要因について分析した。ブレア政権期の政策転換を行いえた要因として、労働党の組織改革に焦点を当ててその過程を分析する一方、特にユーロ加盟の挫折の要因として、EU政策の主導権を大蔵省及び蔵相に握られるという、内閣内における「ひび割れ」によって、ブレア首相の統治スタイルである首相官邸主導の方法が機能しなかった点に焦点をあてた。同時に、官邸主導の方法が機能したイラク戦争によって、イギリス-ヨーロッパ間の亀裂が生じ、ブレア労働党の対EU政策が後退する側面にも注目した。 同時に、EU共通社会政策の形成・転換に関しては、「欧州雇用戦略」や「リスボン戦略」の特に焦点を当て、各国間での政策的収斂の可能性について検討を進めた。特に(1)イギリス・ブレア政権主導による、「第三の道」的な社会政策アイディアのヨーロッパ・レベルへのアップロード、(2)それらの政策アイディアの加盟諸国へのダウンロード、という2段階の過程に注目し、EUを媒介とした各国間での政策収斂について分析した。これまでに形成した「構成主義」の理論に基づきつつ、「政策収斂」や「波及」の観点へと理論的射程を広げたという意義も持つとともに、なぜそのような社会政策が共通性を持って広がるのかについての理論的検討も行った。
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