本年度は、16・17世紀の絶対主義思想・主権論における古代政治学の継受という問題について、特にジャン・ボダン、ロバート・フィルマー、トマス・ホッブズの3名の思想家に焦点を合わせて文献調査を実施した。本年度に実施した研究の中心は、一次史料め読解作業と、当該思想家および思想的コンテクストにかかわる研究史のサーヴェイ、文献収集である。 こうした本年度研究の成果は、必ずしも16・17世紀の絶対主義思想・主権論を直接の対象とするものではないが、『社会思想史研究』および『群馬大学社会情報学部研究論集』に発表した2本の論考に反映されている。それは、第一に、絶対主義、立憲主義、共和主義という思想系譜の境界線は不明確であって、それら系譜の異動・特質を測定するためには、高度に洗練された概念操作を必要とすること(『社会思想史研究』の論考はこの点を共和主義研究の観点から論証した。『政治思想研究』と『論座』に発表した小文は、書評という形式のなかでこうした点を指摘した)、第二に、初期近代の思想家にみられる、古代の政治システム・政治思想に対する態度を測定するためには、中世ヨーロッパの封建制の政治システムに対する評価を吟味する作業が不可欠であること(つまり、古代政治学の受容の様態を確定するためには、当該思想家が前提とした学説史.思想史をめぐる理解のみならず、古代以来の歴史一般をめぐる理解を解明する必要があること)、である。
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