本年度は、16・17世紀の絶対主義思想・主権論における古代政治学の継受という問題について、特にキリスト教思想との関連に焦点をあてて調査を継続した。本年度に実施した研究活動の中心は、一次史料の読解作業と、当該思想家および思想的コンテクストにかかわる文献収集である。 こうした本年度研究の成果の一端は、Q・スキナーのホッブズをめぐる最新刊に対する書評という形で公刊できたが(雑誌論文)、そのホッブズについては、内乱史をめぐる歴史叙述の重要性、並びにクラレンドンの歴史叙述との関連の重要性が判明した。国際学会報告「歴史/歴史叙述のなかの伝統と革命」は、そうしたく政治思想としての歴史叙述>を解明するための予備作業に相当するものである(なお、関連する研究報告を東北大学の政治研究会でも実施した)。さらに本年度には、後の世代の評価に左右されずに絶対主義政治理論の歴史的位置づけを遂行するためには、絶対主義政治理論をめぐる解釈史・受容史を改めて解明・整理する必要性が判明し、その作業の一貫として、ヒューム『イングランド史』のうちジェイムズ1世論の精読と訳出に従事した。以上から図らずも明らかになったのは、古代の政治学や思想との関連のみならず、後世の思想との関連、さらには歴史叙述の果たした理論的意義に注目しながら絶対主義や主権論を理解する必要であり、つまりは、絶対主義的政治理論をディアクロニック(通時的)に吟味する必要性である。
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