本年度は、農山村部の調査・研究を中心に行った。第一に、国鉄赤字ローカル線から転換された第三セクター鉄道のうち全国で初めて全線廃止となった「北海道ちほく高原鉄道」について調査を実施した。まだ廃止後間もないために北海道庁をはじめとする関係者にインタビューをすることはできなかったが(これは次年度以降の可能な時期に行いたいと考えている)、まずは地元紙・広報等の精読・整理を通して事実の把握に努めた。この研究過程で、第三セクター鉄道等協議会事務局などでヒアリングを行いつつ、財団法人東京市政調査会の雑誌『都市問題』に論文「地方鉄道の存続に不可欠な自治の視点」を発表し、農山村部で近年鉄道の廃止が相次いでいる背景に、地域交通を「自治」の問題として考える視点の希薄さがあることを指摘した。第二は、こうした調査のなかで、農山村部において、そもそもどのような経緯で鉄道が敷設されたのかを知る必要性を感じ、このことについても資料収集を行った。まだ調査途中であるが、農山村部の鉄道敷設においては、中央政府の意向よりはむしろ、自治体(及び住民)の意向が大きく作用したということを確認しつつある。つまり、農山村部の地域交通は、当初、「自治」をめぐる問題だったのである。では、当初、地域の問題であったものが、現在のように地域の「自治」の問題として捉え難くなっているのは何故であろうか。このことについては、モータリゼーションという一般的な説明のほかに、地域交通をめぐる中央・地方間の諸制度に注目する必要があるように思われる。こうした視点は、本研究の目的である過疎地域に暮らす人々の「足」を維持し、「まち」の再生を図るための条件を考察する上で意義があると考えられ、次年度の研究において考えを深めて行きたい。なお、本年度の研究成果については、雑誌論文執筆の他、学生・自治体職員への講義を通して発表することができた。
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