本年度は、都市部の調査・研究を中心に行った。まず、福井市で開催された「路面電車サミット」に出席し、各都市の取り組み、実務家からの報告を聞くことで、論点を整理することができた。そして、こうした都市部に関する研究調査等を踏まえ、2つの報告を行った。第一は、財団法人東京市政調査会主催の「雑誌『都市問題』にみる都市問題」研究会において「昭和戦前期の公益事業」と題する研究報告を行い、戦前期の自治体が都市公共交通をどのように捉えていたのかを考察した。ここでは、当時の大阪市長であった関一などの論稿を通じて、公共交通が都市自治体の重要な収入源と捉えられていたことなどを確認した。当時、公共交通は自治の問題と密接に結び付いていたのである。では、なぜ現在において公共交通は地域の「自治」の問題として捉え難くなっているのであろうか。この点については来年度の海外との比較調査で改めて検討したい。第二は、千葉大学法経学部でまえ公開講座(銚子市)において「公共交通の将来と地域社会-地方鉄道を素材にして-」と題する報告を行った。この研究報告では、第三セクター鉄道等協議会事務局などでのヒアリングに基づき、近年制定された地域公共交通活性化・再生法の概要・問題点について説明するとともに、一般市民との質疑応答を通じて、現状の困難さを体感することができた。また、ウィーン在住の研究者を通じて来年度に実地調査を計画しているウィーンの都市交通に関する資料収集を積極的に行い、公共交通を「自治」の問題として捉える視点が極めて強いことを確認した。なお、都市部以外についても、前年度に引き続き農村部の調査を継続的に実施し、北海道庁で状況の把握を行うとともに、北海道大学などで地元紙・広報等の精読・整理を通して事実の把握に努めた。
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