本年度は最終年度である。過去2年間の調査を踏まえた総括的な研究を実施するとともに、海外との比較調査を行った。 まず、都市部の地域交通については、戦前期の鉄道をはじめとする公益事業研究を先導した東京市政調査会の雑誌『都市問題』の詳細な分析を行った。この研究では、地方自治体が都市自治の視点から都市交通全体を「統制」しようとしていたことを改めて確認した。地方自治体が地域交通を一元的に管理・統制したいと考える傾向は、戦前から戦後にかけて見られることである。しかし、近年、民営化の潮流や特殊法人改革のなかで、従来とは逆ベクトルの動きが出てきている。つまり、都市交通の分散化である。このことについては「帝都高速度交通営団誕生の経緯とその意味」と題して研究会報告をし、後日、雑誌『汎交通』に掲載される予定になっている。なお、こうした研究に関連するものとして本年度、『公企業の成立と展開-戦時期戦後復興期の営団・公団・公社』(岩波書店、2009年)を上梓することができた。また、農村部の地域交通については、北海道大学図書館等で地域新聞の閲覧を行うとともに、郷土史家や行政担当者からヒアリングを行った。農村部においても都市部同様、歴史的にいえば地域交通は「自治」をめぐる問題であった。しかし、近年、そうした観点が希薄になっている。このことを実証的に確認する資料を集めることができた。 海外との比較については、ベルリンで資料収集等を行うとともに、ウィーンの都市交通に関する資料収集を行い、地域交通が経営ではなく「自治」視点から捉えられているとの感触を得た。地域鉄道の民営化が進んでいるなか、どのように地域交通全体の管理・統制を自治体が行っているのかは今後更に制度面から研空していく必要があると考えられる。
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