平成20年度においては、交付申請書記載の通り、各研究項目に関する先行文献の渉猟と日本における政党支持概念の歴史的形成過程の研究を行った。 この結果、以下の知見を得るに至った。アメリカにおける政党帰属意識概念史と比較すると、日本の政党支持概念の場合、ミシガン型の政党帰属意識概念と同じく、当初指標化された際に用いられたのは投票意図政党であった。ただ、その際質問意図も(政党帰属意識ではなく)投票意図政党そのものであり、日本の投票行動研究において準拠集団論が意識されるようになるまでにはタイムラグが認められる。さらに1960年代になって政党同一化(=政党帰属意識)を継続的投票と並ぶ「政党支持集団」の必要条件と定義することによって、ミシガン型の政党帰属意識が日本の政党支持概念に接合されたかくして日本の政党支持概念は、投票(意図)政党を淵源とし、その要素を今なお根強く保ちながらも、他方で政党帰属意識という基底的態度までを包含するようになった。世論調査における質問文を設計する際の意図が投票予定政党から政党帰属意識へと因果関係の漏斗を「遡上」ないし変容するいっぽうで、乗り換えるべき他の質問文も見当たらないまま、既存の政党支持が調査者にとって「デファクト・スタンダード」とされて、同じ用語の意味内容だけを拡大させたのである。 以上の成果により、従来日本の政党支持の特性とされていたものの少なからぬ部分は、こうした政党支持概念の特性によって説明できる可能性、および外延が広がり過ぎてあらゆるものを説明(規定)できてしまう現在の政党支持概念を政党帰属意識など基底的態度のレベルと政治的行動に近いレベル(投票意図政党)などと因子分解することを検討する余地が生じた。
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