研究概要 |
本研究は, 主に予防接種行政を事例として, 社会的なリスクに関する制度設計から制度運用に至る, 国-自治体を含めた各段階における行政組織において, いかにリスク認識がなされているのかを探り, 重層的なリスク管理の手法と戦略を分析しようとするものである。研究手法としては, 文献調査・行政資料調査・インタビュー実態調査の3つを並行して進める計画としている。 第二年度である平成20年度は, 主として制度運用の段階についての研究を実施した。 第1に, 文献調査の対象としては, 予防接種法の運用過程について, 占領期から90年代にかけてその変遷を跡づけた。具体的な資料群としては, 新聞等の報道記録に加え, 医学雑誌等に掲載された医師や保健師らによる実態報告・研究報告に類するもの, さらには, 被害者や弁護士らによって編纂された予防接種禍訴訟記録といったものを広汎に収集・分析した。第2に, 行政資料調査として, 前年度に行った厚生労働省に対する情報公開請求や国立公文書館に所蔵されている法令審査資料に関して, 引き続き分析を行った。 以上の作業によって, 公衆衛生に代表されるリスク管理行政の特質として, 作為過誤回避と不作為過誤回避のディレンマが構造化されていることことを示し, 関係アクター間において責任を分担することによって, ディレンマの解消をはかるとともに, その責任分担の動揺が, 制度の変化を規定していることが明らかになった。
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