東南アジアにおける中国のプレゼンスは近年ますます顕著となっている。なかでも、世界最大の華人社会を抱えるインドネシアでは、国内の華人社会を取り巻く環境も劇的に変容している。インドネシア政府は、活性化する華人社会および、経済大国へと成長する中国との関係を最大限活用しながらも、一方では華人の過度のプレゼンスが国民の9割を占めるムスリムらの不満につながらないよう、国内政治では今後極めて難しい政治的舵取りを求め続けられてきた経緯がある。平成20年度はその政治的舵取りを行った政府関係者への聞き取り調査を進め、加えて代表的な華人団体にも政府の取り組みについて聞き取りを行った。大規模な華人社会を抱える国にとって、中国の台頭は華人社会を抱えていない国とは異なる政治課題を突きつける。そのため、この問題を解くことは、インドネシアのみならず他の東南アジア各国をはじめとする華人社会を抱える各国にとっても重要な知見となる。インドネシアにおいて、具体的に中国と華人社会という課題に対して、1998年-2004年のハビビ、ワヒド、メガワティそれぞれの政権下で、中国の台頭と華人社会の再中国化という状況への対応策や、新たな関係構築の方針の立案過程について一次資料を収集し明らかにした。本年度はその研究成果を2008年7月に京都大学にて開催した国際ワークショップ"Chinese Identities and Inter-Ethnic Coexistence and Cooperation in Southeast Asia"にて、'Delivering Citizenship : DEPDAGRI and the Chinese in the 1980s'というタイトルで発表した。この成果は内容を補筆して、次年度に出版が予定されている。
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