平成20年度の研究活動においては、湖南省、広東省、香港での史料収集をおこなった。また、それと並行して広東省東部の海豊県、陸豊県における共産党による「党軍」建設と社会との関係に焦点をあてた論文の執筆を進めた。 8月の訪中では、湖南省長沙の湖南省档案館、湖南省立図書館、平江県の革命記念館において史料収集をおこなった。共産党内部での閲覧を目的として発行された『湖南革命歴史文献彙集』を全巻入手できたのが最大の成果であった。 2月の訪中では、広東省広州の広東省档案館、広東省立中山図書館地方文献センター、広州市図書館で貴重な史料・文献を大量に閲覧・コピーすることができた。中山図書館の地方文献センターには、広東省内各県の档案館が発行した史料集が多数保管されており、これらは本研究を進める上で大いに役立つものである。また、香港では複数の古本屋をめぐり、上記の機関ではもはや保存してない文献を約70点入手することができた。 論文執筆面では、中国共産党初期の「党軍」建設のモデルとされてきた海陸豊ソヴィエトにおける動員の実態に関する分析の結果をまとめた。広東で収集した史料を詳細に分析した結果、当時の海陸豊ソヴィエトにおける軍隊建設は、先行研究で描かれたイメージ(土地革命を契機とする地元民の軍隊への動員)とは大きく異なり、もっぱら金銭契約によって傭兵を集めるという手法がとられていたことが判明した。この海陸豊の事例は、従来「党軍」建設の前提条件としてみなされてきた土地革命が実は軍隊を建設する上で必ずしも必要であるとは限らないことを示したという意味で中国革命を見直す上での重要な手がかりとなると考えられる。この論文(「広東における中国共産党による武装闘争と動員の試み・海陸豊、一九二七年〜一九二八年」は既に慶應義塾大学法学研究会が発行している『法学研究』の査読を受け、2009年6月に同雑誌に掲載されることが決定している。
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