研究概要 |
平成22年度は、広東省梢案館および広東省立中山図書館地方文献センターで収集した史料を用いて、広東東部において中国共産党によって形成された中国工農紅軍(紅軍).第六軍について分析した。その結果、同軍が武装化した宗族、傭兵、匪賊などから構成され、広東東部においてもっぱら営利誘拐や掠奪によって活動資金を調達していたという実態が明らかになった。 広東で収隻した共産党の内部文書には、紅軍が、社会変革を契機とした特定の地域社会からの積極的な支持に依拠して活動を展開したのではなく、実際には社会に内在した既成の武力に依存し、社会に対する収奪によって財源を確保していたという従来の紅軍のイメージを根底から覆すような記述が多数含まれていた。 慶應義塾大学法学会が発行している『法学研究』において平成22年6月に発表した論文「広東東部における『紅軍』の実態」では、そうした内部文書で扱われた事例の紹介を踏まえ、このような新たな紅軍のイメージを提起した。 平成22年8月には、広東東部の複数の県・市において、共産党の重要な軍事拠点となった武装宗族の集落ならびに共産党の山岳根拠地を対象とした現地調査をおこなった。その結果、共産党の拠点となった集落が高度に要塞化されていたことを改めて確認することができた,広東東部に現存する複数の要塞集落は、広東社会がかつて高度に武装化していたことの証であり、共産党が社会に内在した既成の武装集団を吸取して軍隊建設をすることが可能であったことを示している。
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