パキスタン側カシミール(アーザード・ジャンムー・カシミール)への現地査を行ない、現在の紛争ならびに和平プロセスの状況を確認することができた。パキスタン情勢の不安定化と、選挙を控えたインドの事情から、和平プロセスは行き詰まりをみせている。しかし、それにもかからず、「国境線」をソフトな浸透性のあるものに変えていこうとする基調は続いており、民衆から支持されていることが明らかになった。地元政府のみならず、パキスタン中央政府もこの路線をつよく支えている。そのことは、現地等で購入した文献においても確認された。すなわち、カシミール問題の根本的解決や、印パの恒久的和平の道筋はみえないものの、「国境線」概念を乗り越えようとする動きが生まれているといえよう。このことは、我が国をとりまく東アジアの状況とはまったく対照をなしている。もちろん、「国境線」のソフト化進展状況は、緩やかなものであり、住民の高い期待とはギャップも大きい。パキスタン側ではとくに住民の期待値が高いことがわかった。さらに、基本的にムスリムで構成されるパキスタン側カシミールでも、ムザファラバードとミルプールとでは、文化や生活水準に大きな格差があるばかりか、住民の認識にも隔たりがあることが現地調査をつうじて明らかになった。だからこそ、インド側カシミールでの「同胞」の闘いにシンパシーを寄せる住民や政治家は多いものの、実際に行動に移すとなると一枚岩とはいかないのである。
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