まず、資料収集については、2007年9月に2週間にわたってドイツを訪問し、主にベルリンの国立図書館とコブレンツの連邦文書館にて、関連する文献及び一次史料を閲覧・複写・購入した。報告者は計画においては、ヴァイマール期の「アンシュルス(独墺合邦)」運動を担った組織である独墺民族同盟幹部、ハイレおよび独墺活動共同体幹部シュトルパーの個人資料から、「アンシュルス」とヨーロッパ統合論との関係について明らかにするつもりであったが、コブレンツで閲覧した個人資料では、はっきりとした関連性を示す資料はわずかしか散見されなかった。しかしその代わり、やはり独墺活動共同体と深いつながりを持つ中欧経済会議及びそのドイツ支部会長ゴートハインの個人資料から、「アンシュルス」とヨーロッパ統合論の関係を探ることが出来た。 次に研究発表については、論説「ヴァイマル期ドイツにおけるヨーロツでパ統合論に関する一考察-『ヨーロッパ協同体』理念を中心に-」(『九州歴史科学』第35号、2007年11 月)を発表し、「アンシュルス」「中欧」「ヨーロッパ」を同一線上に捉えるという、ヴィルヘルム・ハイレのヨーロッパ統合論の特徴を、「アンシュルス」運動との関連性のなかで浮き上がらせた。また、今回ドイツで新たに入手した資料を基に、2007年12月に九州大学にて開催された九州史学会大会にて、「戦間期ドイツにおける『中欧』とヨーロッパ統合論-中欧経済会議を中心に-」と題して研究発表を行い、そこで得た助言をもとに、同報告を少し改定して、2008年3月になると教育大学にて開催された西日本ドイツ現代史学会にて研究報告を行った。同報告では、中欧経済会議の分析を通じて、オーストリアにおける「アンシュルスJ推進派の手によって、1931年の独墺関税同盟計画がヨーロッパ統合論と関連付けられていく過程を実証した。
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