平成20年度は、前年度に引き続きヴァイマル期ドイツの「アンシュルス」運動とヨーロッパ経済統合論との関連について明らかにするために、主に未刊行文書を中心に資料収集を実施した。具体的には平成20年9月に2週間にわたりドイツ・ベルリンを訪問し、連邦文書館と外務省外交文書館にて、資料の閲覧、複写、発注を行った。 これらの資料によって、民間の「アンシュルス」組織である独墺活動共同体がドイツ政府の地域統合計画の立案に深くかかわっていたことが明らかとなった。具体的には、ブリアンの「ヨーロッパ計画」の代案として作成されたドイツとオーストリアの「ヨーロッパ関税同盟」の計画を、独墺関税同盟計画への前段階として位置づけるという構想自体が、1930年の独墺活動共同体の大会においてまとめられたものであった。そしてこの構想の中心には元オーストリア在独公使リヒャルト・リードルの関与があったことも、資料から散見された。平成19年度の研究では、ドイツの地域統合計画がオーストリア主導であったことを明らかにしたが、今回の資料収集によってそのルートが具体的に浮かび上がった。すなわち、「アンシュルス」運動家であったリードルが、独墺関税同盟計画とヨーロッパ関税同盟構想を結びつけ、独墺活動共同体を媒介として、ドイツ外務省に働きかけたことが明らかとなったのである。先行研究でこうした経緯を明らかにしたものは、管見の限りで、まだない。 なお、平成20年10月に日本西洋史学会に「戦間期ドイツ・オーストリアの地域的経済統合構想」というタイトルでの研究報告を申し込み、審査の結果、研究報告が決定している。
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