本研究の目的は、トルコの加盟問題をめぐるEU内部での「ディスコースと認識の変容」および「政策形成過程」の分析を行うことである。研究開始当初の中心となる関心は、トルコの加盟問題は長らくEUにとって想定外とされていたにもかかわらず、なぜ1990年代半ば以降この問題が再浮上し、なぜ2004年に加盟交渉の開始が原則決定されたのか、という点にあった。その後、トルコのEU加盟交渉が(科研費応募後の)2006年12月に事実上凍結され、その後もその状況がほとんど改善されていないことから、2006年12月以降の加盟交渉の遅れを説明する必要も生じてきている。本研究4年目(平成20年度は育児休暇のため1年間中断したため、実質的には3年目)の今年に関しては、過去2年間の研究の蓄積を基に、4件の学会報告を行い、4本の論文(1本は学術誌、3本は編著)を刊行することができた。これらの業績では主に、現在進行中のトルコとの加盟交渉と、2004年および2007年に実現したEUの「東方拡大」(中・東欧諸国のEU加盟)とを、実際の政策措置とEU内部のディスコースの観点から比較しつつ、東方拡大を説明する際に非常に支配的であった理論枠組みである「規範的アプローチ」が、トルコの加盟交渉の際にどの程度適応可能なのかを考察した。そして、この2つの拡大プロセスの違いは、EUのような地域統合体の拡大を通じた冷戦後のヨーロッパ新秩序の構築のありかたに、少なからぬ変化がもたらされている証左であることを論じた。うち、EUSAでの学会報告は大きな反響をいただき、ChangingTurkeyなどのトルコEU研究学術サイトなどにも報告要旨が転載されている(http://changingturkey.com/)。
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